電圧レギュレータの基礎知識(1/4)
電圧レギュレータとは
電圧レギュレータとは、入力電圧や出力電流が変わっても常に一定の電圧を出力するICです。回路構成の違いにより、リニアレギュレータとスイッチングレギュレータというものがあり、素子の違いからバイポーラレギュレータ、CMOSレギュレータに分けられます。ここでは、バッテリー駆動機器でよく利用されるCMOSリニアレギュレータを中心に、当社(TOREX)の製品の具体例も交えながら解説していきます。
レギュレータ分類
CMOSリニアレギュレータの基礎知識
CMOSリニアレギュレータとは、CMOSプロセスを使用したリニアレギュレータのことであり、バッテリーユースの携帯電子機器の成長と共に発達してきました。 CMOSプロセスは、LSI、メモリーなどの大規模集積回路に使用されているため日進月歩で微細化されています。 その微細化技術を利用しながらCMOSリニアレギュレータは、小型、低ドロップアウト、低消費電流などを実現できたため携帯電子機器の電源ICとして広く利用されてきました。
バイポーラリニアレギュレータとの違い
一般的にCMOSリニアレギュレータは、バイポーラリニアレギュレータと比較して消費電流が小さいとされています。これはバイポーラプロセスが電流駆動素子なのに対し、CMOSプロセスは電圧駆動素子(MOSFET)だからです。(図1)
特にリニアレギュレータのようにクロック動作を必要としない場合、アナログ動作回路以外の回路での動作電流を、ほぼゼロにすることができるので低消費電流に向いています。
(図1)電流駆動素子と電圧駆動素子
バイポーラトランジスタ
ベース電流を流すことで、エミッタとコレクタ間に電流が流れるようになる。出力電流を得るためにはベース電流を流し続ける必要がある。
MOSFET
ゲートに電圧を加えることで、ソースとドレイン間に電流が流れるようになる。ゲートへの電荷チャージ後はオンさせるための電流を必要としない。
バイポーラリニアレギュレータの多くは、入力電圧範囲が30V~40Vと高く、電流も1A以上流せるため多くの白物家電や産業機器に使用されています。しかし、出力端子の構造がNPNダーリントン出力のため1.2V以上の入出力電位差が必要となります。表1に標準的な三端子バイポーラリニアレギュレータとして知られている「78シリーズ」の主要特性の一部を記します。
製品型名 | 最大出力電流 | 入力電圧最大定格 | 動作電流 | 入出力電位差 |
---|---|---|---|---|
78xx | 1A | 35V, 40V | 4~8mA | 2V@1A |
78Mxx | 500mA | 35V, 40V | 6~7mA | 2V@350mA |
78Nxx | 300mA | 35V, 40V | 5~6mA | 1.7V@200mA
2V@300mA |
78Lxx | 100mA | 30V, 35V, 40V | 6~6.5mA | 1.7V@40mA |
バイポーラリニアレギュレータは、プロセスでの工程数がCMOSプロセスと比較して、おおよそ半分から3分の2程度と少ないため、チップサイズが大きくてもコスト的にメリットが出せます。そのため、大電流や耐圧の高いものに適していると言えるでしょう。
CMOSリニアレギュレータの特徴
バイポーラプロセスと比較してCMOSプロセスは微細化が進んでおり、低電圧、低ドロップアウト、低消費電流、小型といった特徴をもったCMOSリニアレギュレータが続々と登場しています。低消費電流であることは大きな特徴であり、自己消費電流が1μA程度に抑えられているものもあります。この特性は、電子機器のスタンバイ状態やウエアラブル機器のバッテリーライフの向上に貢献されています。もう一つの重要な特徴は低ドロップアウトです。その中でも特に入出力電位差が小さいレギュレータをLDO (Low Dorp Out)と呼びます。このLDOをバッテリーユースの携帯機器に用いることでバッテリーを限界ギリギリまで使用でき、機器の稼働時間の長時間化に寄与します。またLDOは、熱損失を抑えながら小さな入出力電位差で大電流が取り出せるため、機器が必要とする電流の幅を広げられるというメリットもあります。このため、今日の携帯機器(携帯電話、デジカメ、ノートPCなど)では必須の電源ICとなっています。
外観
標準的なものでは、SOT-23やSOT-89の小型パッケージに入っています。
最近では超小型化パッケージのUSPやWLPなども出てきており、特徴的なのは携帯機器に牽引され発達してきた電源ICだけに、表面実装用の小型パッケージに封入されたものが多いです。以下に代表的なCMOSレギュレータパッケージ例を示します。
CMOSリニアレギュレータの分類
CMOSリニアレギュレータを分類すると低消費電流、大電流、高耐圧、高速、LDOなどがあります。それぞれ厳密な定義はありません。低消費電流とはおおよそ数μAの消費電流のもの、大電流とは500mA程度以上出力できるもの、高耐圧とは15V~20V以上のもの、高速とはリップル除去率で表現し60dB@1KHz程度以上のものを呼ぶことが多いようです。LDOも同様に厳密な定義はありませんが、もともとはバイポーラリニアレギュレータのNPNエミッタフォロアー出力やNPNダーリントン出力などの入出力電位差が必要なものに対し、PNP出力やPch
MOS出力の低飽和出力を表していました。(図2)
最近ではオン抵抗換算で2Ω@3.3V程度以下が目安になっている場合があります。
(図2)出力ドライバ形式
NPNエミッタフォロアー出力
ベース電流を流すために出力端子に対しベース電圧分の0.6V制御回路が高い必要があります。制御回路は入力電源で動作しているので、すなわち入出力電位差が0.6V以上必要です。
NPNダーリントン出力
エミッタフォロアー回路が二段で構成されているので入出力電位差は1.2V以上必要です。この回路では出力トランジスタのベース電流をプリドライバで増幅できるので大電流が出力できます。
PNPトランジスタ出力
PMOSトランジスタ出力
ベース電圧あるいはゲート電圧ともに入力電源より低い電圧を入力することでトランジスタをオンできるので、出力端子電圧に対する入力電源電圧の制限がありません。ベース電圧あるいはゲート電圧と制御回路が動作する入力電源電圧があれば動作できるので、入出力電位差が小さくなります。
また、CE端子が付いており必要に応じてオン/オフする機能や、2チャンネルや3チャンネルなど複合されたレギュレータ、電圧検出器内蔵など数多くの種類があるのも特徴のひとつでしょう。なぜならこれらのCMOSプロセスでは、回路の大規模化やIC内部のブロックごとにオフした時、そのブロックを完全にオフさせ消費電流を低減させることが容易だからです。図3に2チャンネル出力のXC6415シリーズのブロックダイアグラムを示します。この製品はVR1とVR2をそれぞれ独立してオン/オフすることができます。
(図3)2チャンネルレギュレータのブロックダイアグラム(XC6415シリーズ)
<XC6415 AAseries>
内部回路と基本構造
内部回路は、基準電圧源、誤差増幅器、出力電圧プリセット用の抵抗、出力用Pch MOSトランジスタが入っています。また、保護機能としての電流制限回路、サーマルシャットダウン機能などが入っているものもあります。
IC内部の基準電圧源にバイポーラプロセスで使用されるバンドギャップリファレンス回路を構成しにくいので、CMOSプロセス特有のものが用いられることが多く、出力電圧の温度特性がバイポーラリニアレギュレータに比較すると若干悪くなっていることがあります。
また低消費電流タイプ、高速タイプ、低ESRコンデンサ対応などにより、それぞれ内部の位相補償や回路構成が変わっていることがあります。低消費電流タイプでは通常二段アンプ構成が用いられますが、高速タイプでは、低消電流と高速過渡応答を両立させるため三段アンプを使用するなどの工夫もされています。図4に高速タイプの内部回路図を示します。
初段のアンプと出力用Pch MOSトランジスタの間にバッファー用の増幅段を入れることで、出力用Pch MOSトランジスタのゲート容量を高速にドライブできるようになっています。出力電圧はR1とR2で、電流制限値はR3で決められます。それぞれにトリミングが行われるため精度良く設定されます。高速タイプでは、特にその用途が無線機器や携帯電子機器であることが多く、小型化の必要性もあるためセラミックコンデンサなどの低ESRコンデンサ対応になっていることが多いです。
(図4)高速タイプの基本構成ブロックダイアグラム