コイル一体型 micro DC/DCコンバータ XCLシリーズ

1. はじめに

スマートフォン、タブレット端末等に代表される携帯機器に搭載される半導体や電子部品は、小型・低背化が求められています。機器に搭載する半導体の低電圧化/大電流化に伴い、シリーズレギュレータより変換効率が良いDC/DCコンバータの採用が進んでいます。

DC/DCコンバータは、通常、電源制御IC、コイル、コンデンサ、抵抗等の部品で回路構成しています。そのため、シリーズレギュレータに比べて実装面積が大きくなり基板コスト増加の要因になっています。さらに選定部品や基板レイアウトの良し悪しによって回路誤動作やノイズ問題を起こしてしまう事が多くあります。このような問題を解決する製品としてmicroDC/DCコンバータが注目されています。microDC/DCコンバータは部品点数が少ないので基板レイアウトが簡単で、ノイズも少ないため開発工期の短縮に繋がります。

今回、microDC/DCコンバータ製品を紹介するとともに、より良く使うためのポイントを紹介します。

2. microDC/DCの構造と特徴

TOREXのmicroDC/DCコンバータ製品は、制御ICとコイルを一体化した単一出力のスイッチング・レギュレータが中心となっています。パッケージ構造は、製品仕様、IC、コイル、発熱(放熱性)等を考慮した上で決定しています。そして各々のパッケージ構造には長所・短所が存在します(表1)。

表1 microDC/DCコンバータの構造と特徴
構造番号 TYPE-1 TYPE-2 TYPE-3
構造図
構造説明 ICをコイルで覆ってしまう方法 コイル上にICをスタックする方法 コイルとICを横に並べる方法
特徴 ◎ 放射ノイズ
◎ 近傍磁界
△ コスト
◎ 実装面積
〇 大電流
〇 放熱
〇 放射ノイズ
△ 近傍磁界
◎ コスト
〇 実装面積
△ 大電流
△ 放熱
〇 放射ノイズ
〇 近傍磁界
〇 コスト
△ 実装面積
◎ 大電流
◎ 放熱
製品 XCL101(昇圧)
XCL201/XCL202(降圧)
XCL205/XCL206/XCL207
(降圧)
XCL208/XCL209(降圧) XCL211/XC212(降圧)
XCL213/XC214(降圧)

2.1 TYPE–1構造

ICのパッケージとコイルを張り合わせる。スイッチング電流経路が短くなり、ノイズが非常に少ない。

2.2 TYPE-2構造

コイル上にICチップを実装し樹脂モールドしている。汎用形状のコイルが使えるため比較的安価に作ることができる。

2.3 TYPE-3構造

コイルとICチップを隣に並べて樹脂モールドしている。ICやコイルの放熱性が良いため、大電流を流す事ができる。

3. ノイズを考慮した設計

電子機器の性能を十分引き出すためには、ノイズの発生を抑えるように回路設計の段階から、「ノイズを考慮した設計をしているか否か」が重要になってきます。しかし、電源回路部分はノイズの発生源であるにもかかわらず部品選定は最後になります。電源回路の設計が悪いと、どんなに高性能なICやLSIを使っても性能を引き出すことはできなくなってしまいます。

TOREXのmcroDC/DCコンバータはノイズを低減するため、

  • 漏れ磁束が少ないコイルを採用
  • microDC/DC用にコイル特性を調整
  • DC/DC動作の最適化
  • 電流経路を考慮したピン配置や構造

など、様々な工夫が凝らされています。実際に「ディスクリートで構成した電源回路(XC9236)」と「microDC/DCコンバータ(XCL206)」ではどのくらいノイズ特性が異なるのか、放射雑音と近傍磁界強度の測定データを使って紹介します。

3.1 EMI(Electromagnetic Interference)

「XC9236B18DMR」と「XCL206B183AR」の2つの製品の放射雑音を比べたものです(図1)。

XC9236(黒の波形)は50M~300MHzの広範囲でノイズを発生させています。一方、XCL206(黄緑の波形)は非常にノイズレベルが低い事が分かります。このように同じ動作周波数であっても、はっきりとした差が出ています。そのため、XCL206(microDC/DCコンバータ)は後手に回りがちなノイズ対策を軽減できる製品と言えます。また、XCL206と同じ構造のXCL202(Freq=1.2MHz)は動作周波数を低く抑えているため、更に低ノイズ品となっています(EMIデータ参照)。

試験条件:VIN=3.7V(DC電源)、VOUT=1.8V、IOUT=200mA(抵抗器:9Ω)
XC9236B18DMR(Freq=3MHz) Cin=4.7uF,CL=10uF
XCL206B183AR(Freq=3MHz) Cin=4.7uF,CL=10uF

図1 XC9236B18DMR vs. XCL206B183AR 放射雑音

Horizontal

Vertical

3.2 近傍磁界強度(Near Magnetics Field)

「XC9236B18DMR」と「XCL206B183AR」の2つの製品の近傍磁界強度を比べたものです(図2)。近傍磁界強度は、不要雑音として放射されるノイズの強度とは必ずしも相関しませんが、実装基板を流れる高周波電流によりノイズ源を特定する手段として有効です。

試験条件:VIN=3.7V(DC電源)、VOUT=1.8V、IOUT=200mA(抵抗器:9Ω)
XC9236B18DMR(Freq=3MHz) Cin=4.7uF,CL=10uF
XCL206B183AR(Freq=3MHz) Cin=4.7uF,CL=10uF

図2 XC9236B18DMR vs. XCL206B183AR 近傍磁界強度
XC9236B18DMR XCL206B183AR
Evaluation Board
Frequency Range
50MHz - 300MHz
Frequency Range
300MHz - 1000MHz

XC9236は、周波数レンジ:50M-300MHzでIC周辺に輪状に橙色や赤色が現れております。その中でもICのGND端子付近に一番強いノイズが発生していることが確認できます。また、コイルにも黄色の輪状のノイズが確認できます。コイルは簡易シールド・タイプ(樹脂にフェライト粉末を混ぜたもの)のため、磁束漏れがノイズとして確認されたと考えられます。一方で、XCL206(microDC/DCコンバータ)は、赤色や橙色がなく、発生ノイズが少ないことが分かります。

4. microDC/DCコンバータを使いこなすために

microDC/DCコンバータは詳しい知識がなくても動作させることができます。基本的な知識を持っているとノイズや回路部品の発熱を抑えることでき、電子機器の信頼性が上がり製品の評判も良くなります。

4.1 小型・低背

microDC/DCコンバータは、ディスクリート部品で構成した従来のDC/DCコンバータに比べ半分の実装スペースで済むため基板コスト低減にも繋がります。また、シリーズレギュレータと同サイズの基板スペースで済みます。(図3)

図3 実装面積比較
XC9236B18DMR
(DC/DC Converter)
XCL202B181BR
(microDC/DC Converter)
XC6221A182MR
(Series Regulator)
Evaluation Board

4.2 効率と部品温度

シリーズレギュレータとmicroDC/DCコンバータでは電力変換効率に大きな差が出てきます(図4)。

例)
XC6221…48%(@IOUT=100mA)
XCL202…87%(@IOUT=100mA)

図4 XC6221A182MR vs. XCL202B181BR 電力変換効率

この効率の差によって、機器のバッテリー駆動時間に大きな差が出てきます。そして、この時の効率差は損失としてIC自身の熱に変換されます(図5)。

XC6221(PKG:SOT25) ⇒ 61.3℃(@Ta=23.4℃)
XCL202(PKG:CL2025) ⇒ 36.3℃(@Ta=23.4℃)
試験条件:VIN=3.7V、VOUT=1.8V、IOUT=100mA(抵抗器:18Ω)、Ta=23.4℃

図5 XC6221A182MR vs. XCL202B181BR 熱特性

XC6221A182MR
(Series Regulator)

XCL202B181BR
(microDC/DC Converter)

4.3 基板レイアウトのポイント

回路図で書くと簡単そうに見えるGND配線ですが、実際にプリント基板でレイアウトするとなると非常に難しいものです。接続されていれば良い訳ではなく、接続位置や基板レイアウトが悪いとシステム全体の性能を低下させてしまうことになります。
例えば、降圧DC/DCコンバータは、スイッチ1(SW1)とスイッチ2(SW2)を交互にオン/オフさせて、出力電圧が安定するように電流量をコントロールしています。そのときに流れる電流がCurrent①とCurrent②になります(図6参照)。

図6 降圧DC/DCコンバータの電流経路

そして、図7に示す赤色の配線にはCurrent①もしくはCurrent②のどちらか一方の動作時でしか電流が流れていません。スイッチ1(SW1)とスイッチ2(SW2)が切り替わった時に、瞬時にスイッチング電流の流れが切断されることで配線のL(インダクタンス)成分によって起電力が発生することになります。

図7 降圧DC/DCコンバータのノイズ

では、具体的にどのようにする必要があるのか、回路図で説明いたします。

ノイズを低減させるには、図7にある赤色で塗られた部分の配線長を短くする必要があります。IC内部配線は別として、入力容量(CIN)をDC/DCコンバータのVIN-GND端子間の近くに配置し短い配線で接続するようにします(図8参照)。特にGNDはシステム全体にノイズを撒き散らしてしまうため注意が必要です。

図8 回路図上のCIN接続位置

次に、実際のXCL206(miroDC/DCコンバータ)の評価基板を例に説明します。パワーGND(PGND)とアナログGND(AGND)があります。その場合、パワーGND(PGND)に対して、入力容量(CIN)を短く接続することで起電力が発生するGNDパターン部分(赤色)の面積を非常に小さくすることができます(図9)。

図9 XCL206のプリント基板レイアウト(TOP VIEW/BOTTOM VIEW)

XCL206評価基板は、ピン配置からすると表面パターンでパワーGND(PGND)、TAB、アナログGND(AGND)を一直線で繋げばGNDパターンのレイアウトが簡単そうです。しかし、ノイズ面からすると電流経路が変わってしまいCINの効果が低下しマイナス効果になりますので注意が必要です。

5. おわりに

最近、国内外のメーカーにおいてウェアラブル機器の開発が活発に行われています。TOREXのmicroDC/DCコンバータは、数年前よりGPS Watch(スポーツ・ウォッチ)、HMD(Head Mounted Display)、パルスオキシメーター(pulse oximeter)等に多く採用いただいております。ウェアラブル機器は身に付けて使用する時間が長いため「部品発熱による火傷の問題」「バッテリー駆動時間」、そして「人体への高周波ノイズの影響」等に注意されて設計されているようです。そのため、小型・高効率・低ノイズの特長を有しているmicroDC/DCコンバータを採用するメーカーが増えている理由であると考えられます。最後に、取得したノイズデータ(放射雑音、近傍磁界強度)を掲載しますので部品選定の一助となれば幸いです。

EMI(Electromagnetic Interference) VIN=3.7V,VOUT=1.8V/IOUT=200mA
VCCI Class B(3m)
Horizontal Vertical
XC9236B18DMR
XCL209B183DR
XCL206B183DR
XCL202B181BR
近傍磁界強度(Near Magnetics Field) VIN=3.7V,VOUT=1.8V/IOUT=200mA
Frequentry Range
50MHz - 300MHz 300MHz - 1000MHz
XC9236B18DMR
XCL209B183DR
XCL206B183DR
XCL202B181BR
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